光と風と夢(中島敦:中島敦全集I収録)

「宝島」などで有名なR・L・スティーブンソン(以下RLS)がサモアで暮らしていたときの日記「ヴァイリマ・レターズ」に中島敦が要所要所で解説を加えて仕上げた作品。
かつてRLSが暮らしていたサモアの家は、現在、スティーブンソン博物館として公開されているほどの立派なもの。・・・という程度の知識はあり、そのため、我ながら偏見だとは思うが、RLSについては「途上国で君臨していた白人のブルジョワ」というイメージもあったのだが、この作品でかなりイメージが変わった。

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RLSはもともと病弱で、南海の優しい気候が転地療養に良いだろうということでサモアに移り住んだのだが、19世紀末の当時はまだ植民地主義が残っていた時代で英米独の3カ国がサモアを牛耳り、搾取していた。

そんな中、サモアにもサモア人にも好感を持つRLSは積極的に現地に溶け込もうとするものの、そういう姿勢は白人の支配層から反感を買う。RLSは当時既に名の通った文学者であり、いわゆる名士でもあって現地の人たちからも「ツシタラ(語り部)の酋長」としての尊敬を集めたという。

従って、本人が意図したかどうかは別として「土人の味方で反政府派」というようなレッテルを貼られてしまうようなのだが、本人は、少なくとも作品中では、そのことをそんなに深刻視していないようにも見える。(もちろん、色々と東奔西走している様子ではあるものの)

さらに少し驚くのは、病弱で、何かというとすぐに喀血してしまうような自身の健康状態についても割と達観してしまっているようだ。むしろ、自分の作品の出来不出来や、これまでの半生を振り返っての内省的な苦悩、さらには多くの家族や使用人を養うための経済的な苦労のほうが本人にとっては深刻な問題だったように思える。

日記の随所に、サモアの美しい景観についての記述が出てくる。
「・・・色無き世界が忽ちにして、溢れるばかりの色彩に輝き出した。此処からは見えない、東の巌鼻の向うから陽が出たのだ。何という魔術だろう!今までの灰色の世界は、今や濡れ光るサフラン色、硫黄色、薔薇色、丁子色、朱色、土耳古玉色、オレンジ色、群青、菫色・・・金の花粉を漂わせた朝の空、森・・」
等など。

RLSの感性に大変に惹きつけられる作品。他の作品も読んでみたくなる。