60歳からの終身医療保険①「入院期間」

人生100年時代と言われるが、ぼくは長い間自分の人生は80年くらいかなと想像していたので、後期高齢者になった自分の姿とかはあまり想像してこなかった。しかし最近ふとしたことで、長生きしてしまう上に重い病気になる可能性もあるんじゃないかと思えてきて、ちょっと真剣に終身保険の見直しをしたところ。

都民共済(都道府県民共済)という掛捨ての保険がある。これは現役世代にとってのとても心強い味方だ。抜群にコスパよく手厚い保障をしてくれるのでこれまでずいぶん頼りにしていた。しかし60歳を過ぎたあたりから保障はだんだん薄くなり、85歳で遂に保障が切れる。後期高齢者になった後のことも考えると、残念ながら都民共済だけではしのぎ切れない。

もちろんどんな保険でも保障されるのは原則としてお金だけなので、十分な蓄えさえあればそもそも保険に入る必要が無く、あれこれ考えなくてもいいのだが、そんな自信は無い。

—————–

「後期高齢者以後(75歳以後)の医療保障」ということに絞って考えると、どういう保険が必要になるのかわりとわかりやすい。子育ての心配はもちろん無いし、年金を軸にした暮らしを前提にするならば「休業補償」的な側面も考えなくて良い。遺族の暮らしを支える死亡保険的な要素も必要無い。また、医療費も1割負担になることを前提に考えれば、(公的保険の効かない)差額ベッドなど以外での負担は少ないはずだ。

要するに現役世代に比べてかなり軽い保険で構わないということ。

また、「〇〇発症時にXX万円」という類いの一時金タイプの特約も無くて良い。そもそも60歳を過ぎてからの加入でそういうオプションを付けても「払った分が戻って来る」程度になるのが関の山。だとするとそのくらいは普通に「貯金」していったほうがずっと融通が利く。

ただし先進医療オプションは、発症確率は低くても負担がかなり高額になるので、これは付けておいて良いと思う。そもそも発症確率が低いので特約をつけてもせいぜい100円前後のプラスにしかならない。この特約だけは終身ではなくて10年ごとに見直しが入るが、いきなり桁違いに掛け金が大きくなることはないだろう。

逆に高額な特約としては「がん/三大・七大・八大疾病などの発症時に以後の保険料免除」というものがある。これも現役世代には休業補償的な意味を持つだろうが、常に一定の収入がある後期高齢者にはあまり意味が無い。

—————–
そして、この記事のメインテーマ「入院保障期間」の設定。

だいたいどの保険も基本形は「入院60日保障」で、選択肢としては「30日」または「120日」が選べるようになっている。また、どれを選んでも通算で1000日程度という限度は変わらない。さらに、がん/三大・七大・八大疾病については「入院期間無制限」という設定ができるものもある。

保険なので保障期間は長いほど良く、保障範囲も広いほど良いに決まっているが、当然それに応じて支払い金額も多くなる。そこでまず思い浮かぶのは、

・医学の進歩とともに平均入院日数は年々小さくなっている。なので、30日もあれば充分じゃないか?
・がんになる可能性は高いのだから、がんのときには無制限にしておいていいんじゃないか?
・そもそも八大疾病って何と何だっけ?

というあたりだろうか(要するにぼくが最初に考えたことだ)。

で、何か考えるヒントとなるものは無いだろうかと探してみたところ、厚労省の患者調査統計というデータのかたまりに行き当たった。

———————
厚労省が3年に一度の頻度で患者調査を行っており、最新の令和2年版がつい先日、2022年6月30日付けで公開された。(これを書いているのは2022年7末)

外来や入院の患者数と入院期間が、傷病別、性・年齢別、地域別、病院種別などいくつもの切り口で集計されており、e-Statという政府統計の総合サイトで公開されてデータをダウンロードできるようになっている。切り口は違えどベースのデータは1つなので、ドリルダウンなどができるBIツールを使えば非常に便利に活用できると思うのだが、厚労省の担当者が頑張ってさまざまな目的別に実に300種類以上の帳票に仕立て上げて公開してくれているのだ。

>> 患者調査統計(e-Stat)

これらの集計データのうち、入院期間の検討に役立ちそうなのが『87番:在院期間(32区分)別推計退院患者数構成割合(累積),傷病中分類別』というデータだ。150種ほどの傷病分類ごとに「ヒトは何日くらいで退院するのか」がわかる。

あらゆる病気について例外的に長期入院になるケースはあるものの、「9割以上の人が退院するのが何日目(何か月目)なのか」くらいを目安にしてみていくと傾向がわかりやすい。
大雑把に書くと、30日未満で退院率が9割を超えるのは全傷病の半分程度しかない。それが120日未満にすると、92%くらいの傷病が退院率9割を超える。

ということは、ベースの入院期間は30日とかは論外で、120日、目一杯にするのが正解なのだろう。

そして120日入院してもまだ退院率が9割を超えないいくつかの傷病について、すべて「X大疾病で入院無制限」でカバーできれば言うこと無しなのだが。

————–
具体的に見てみると・・・120日を超える長期入院になりそうな傷病は以下のとおりだった。(カッコ内は退院率が9割を超えた月数)

・結核(5カ月)
・精神および行動の障害系:認知症など5種(1年)
・パーキンソン病(6か月)
・アルツハイマー病(2年)
・くも膜下出血(6カ月)
・脳内出血(6カ月)
・脳梗塞(5カ月)

・・・以上だ。脳卒中3種は三大疾病に含まれているが、他の傷病は八大疾病にすら含まれない。ちなみに各種のがんは概ね40~50日程度で退院できているようだ。

ということは・・・入院期間無制限オプションは
・がん発症時のみ:あまり意味無し。
・三大疾病発症時:脳卒中3種が含まれるのでこれは意味あり。
・七大、八大:不要。三大でOK。
ということにならないだろうか。

そして特に入院が長期化する傾向のある精神・神経系の疾患については通常の医療保険ではカバーできないという前提で別の保険を用意しておいた方が良さそうだ。

———
ちなみに、令和2年の1つ前、平成29年の統計と見比べると、3年の間に平均入院期間は少しだけ短くなっていた(1%程度)。10年後20年後にはさらに期待できるのかもしれない。